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JBL PROFESSIONAL Intellivox ビーム・ステアリング・スピーカーの可能性を探る①


 ここのところ「ビーム・ステアリング」という言葉を耳にするようになりましたが、皆さんもすでにお聞きになったことがあると思います。
これはスピーカーに関するテクノロジーのひとつで、最近「JBL PROFESSIONAL」から発表された「Intellivox」というスピーカー・システムにも同技術が投入されています。そこで、ここではビーム・ステアリングが持つ理論と技術に着目して、動作はどうなっているのか、また実際に「Intellivox」を測定し、そのデータから見える多くの可能性について考察してみたいと思います。「ステアリング」とは、英語のsteeringつまり車のステアリングと同じで「舵を切ること」と言う意味。これをスピーカーに置き換えた場合は、スピーカーのビーム=音線軸(音の方向)をスピーカー自体の向きを変えずに動かすという意味になります。何とも興味深い技術ですね!
では、どのようにすればそれが可能なるのか、早速見ていきましょう。



今回検証した「Ivx-DSX280
●形式:コラム型パワード・スピーカー●周波数レンジ(±3dB):130Hz〜18kHz●指向角度:水平=130°/垂直=DDAソフトウェアによる自動設定(可変)●最長到達距離:20〜35m●最大音圧レベル:94dB SPL(ピーク時)●ドライバー構成:4"(102mm)×14/1"(25mm)×4●パワーアンプ:40W×8 ClassD●入力部:チャンネル数=2、端子・形式=WAGOターミナルブロック3ピン×2、インピーダンス=6.8kΩ(バランス)●電源:AC100V、50/60Hz●消費電力:450W●寸法:W135×H2,800×92mm(除突起部)●質量:27kg

 ■目次
 >>なぜ音の方向を動かす必要があるの?…[前編] 
 >>Intellivoxとは…[中編] 
 >>実際の設置例…[後編] 

 >>Intellivox 製品ページはこちら

>>Intellivox関連記事一覧
なぜ音の方向を動かす必要があるの?
 まずこの技術が必要とされる理由について、またどのような場面で有用なのかを考えてみましょう。必要な理由は大きく分けて3つあります。

 1つ目はデザイン的な問題です。設備設計に携わっている方は建築デザイナーから「そのスピーカー、まっすぐに取り付けられないの?」とよく言われると思います。しかし通常スピーカーはユニットが向いている方向にしか音は出せません。壁の高い所にスピーカーの背面をピッタリと取り付けると音は頭上を通過していきます。外見はこのような設置であっても、音の方向を自在に変えることができたなら…デザイナーの喜ぶ顔が浮かんできますね。

 2つ目は、スピーカーを設置している部屋の形状や客席の位置が変化する場合。例えばホテルの宴会場のように可動壁によって部屋の形状やフロア面積が変わる場合、最も大きな面積でスピーカーの向きを合わせると、可動壁で部屋を区切った際にスピーカーの向きが最適な位置からは大きく離れてしまいますし、可動壁からの直反射が発生する可能性も高まります。このような時にも音の向きを変える(下げる)ことができれば、常に最適な方向にスピーカーが向いている状態を作ることができます。

 3つ目として、このタイプのスピーカーは従来のホーン型スピーカーよりも鋭い音の方向制御が可能ですので、必要のない場所への音の到達量を減らせるという特徴があります。この特徴を生かせば、反射性の壁面に囲まれていたり残響時間が長い空間でも、従来型のスピーカーよりも明瞭に音を伝達することが可能です。例えば、教会や駅のコンコース、アトリューム、ファサード等です。

どんな仕組みで動くの?
 では、一体どのようにして音の方向を変えているのでしょうか。実は、音の方向(音線軸)を動かす試みは随分以前から行なわれてきました。1つの例ですが、少し前のクロスオーバーに「フェーズコントロール」という機能がついていた機種がありました。これを使えば2ウェイでしたらHigh側のクロスポイントの位相を動かすことでスピーカー音を変化させることができました。

 なぜ変化したのでしょうか?ご存知のようにクロスオーバー周波数ではHigh/Lowという2つのスピーカーから同じ音が出ています。この時これらの音の出るポイントが物理的に前後にズレていると、それら2つの合成音の方向は正面には向きません。そこでその方向を、High側のフェーズを動かすことによって最も効率良く目的の方向(正面)に合成するようにしていたのです。少しまどろっこしい言い方になりましたが、単一周波数(この場合クロスオーバー周波数)では位相と時間は同一に扱えますから、フェーズを動かす=ディレイをかけるのと同意になります(下記の用語解説参照)。つまり重なっている周波数(クロスオーバー周波数)に関して2つのユニット間がズレている分だけディレイによって音の方向を変化させて正面に向けていたわけです。当時のデジタルディレイは非常に高価だったためにフェーズで代用していたのですね。しかし、これには回路的な制限があり180°までのシフトでした。またこの時、当然ながらクロスオーバー周波数以外の部分では音の方向は変化しませんので、重なっている周波数だけで合成音の方向を最適化させるに留まりました。

 また、主に海外でよく見られたライブ・セッティングにおけるテクニックでしたが、ラインアレイのなかった時代、スピーカーは縦にスタッキング(縦積み)していました。その時、下の図のようにある部分のスピーカーへの送り出しにディレイをかけて少しずつ遅らせることで、合成された音線軸の方向をステージに近い客席に合わせて(下げて)サービスすることがありました。このテクニックは実際に1988年に行なわれたピンクフロイドの日本公演でも使われていましたが、筆者はこれを当時の担当PAカンパニー「Britannia Row」のテクニカル・アドバイザーであったJhon Newsham氏から教えてもらいました。ただ、この方法は大きく音線軸を動かせませんし、目的の方向以外の音も多少変化してしまいますので、とても万能とは言えないものでした。
 
以前に行なわれていたスピーカー・スタッキング時のディレイ・テクニック。
下の3段のスピーカーにそれぞれディレイをかけることで音線軸が下を向き、客席手前側をカバーできるが問題点もある

 
用語解説:位相と時間

音は気温が15℃の時、1秒間に340m進みます。この時、1000Hzを例に取れば、1波長は340mの1/1000、つまり34cmですね。位相はこの1波長を2π(360°)としますから、1000Hzの場合は34cmが位相の360°になります。従ってクロスオーバー周波数が1000Hzの時に10cmユニットを動かしたければ、360°の10/34倍=106°位相を動かせば同じ結果が得られます。当然ながら周波数が変われば10cm動かすための位相は変わります。500Hzでは53°になります。皆さん計算して見てください


さらに動かすだけではなく…
 さて、このように“単に音線軸を動かすだけ”の技法ならば以前より行なわれていたわけですが、最近のデジタル技術の進化により、もっと複雑なステアリングが可能になりました。それは対象とするエリアに対して均一に音を放射する技術です。

 下の図を見てください。従来型では単純に音線軸の方向を変化させるだけでしたが、新しい技術では近距離から遠距離までのある幅を持ったエリア全体を綺麗にカバーすることが可能になっています。従来型のステアリングは簡単なディレイとフィルターがあれば可能でした。しかし、新しいものではディレイ以外にもIIRやFIRと言ったデジタルフィルターが用いられ、一見構成的には似ているものの、その演算では非常に複雑な計算処理が行なわれるようになりました。そして、従来型の音線軸だけを動かす技術をビーム・ステアリングと呼ぶのに対して、これらは「ビーム・シェイピング」と呼ばれています。つまり、ビームの形状自体を理想的な形に成形する(シェーピングする)ことを可能としたのです。この技術を用いた機種の代表として、ここからは「JBL PROFESSIONAL」の「Intellivox」をご紹介していきたいと思います。

ビーム・ステアリングと ビーム・シェイピングの違い


 
<従来型>
ビーム・ステアリングスピーカーの
ビーム方向のみを変える


 


 
<最新型>
ビーム・シェイピングスピーカーの
ビーム形状を変更し近距離から遠距離
までのある幅を持ったエリア全体を
均一にカバーできる様にする

   
 >>  Intellivoxとは・・・ [中編を見る]
 >>  実際の設置例・・・ [後編を見る]
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